TOPPERS Project Newsletter No.1
(創刊号)

2001年11月19日発行

TOPPERSプロジェクト
http://www.ertl.jp/TOPPERS/

目次

JSPカーネルRelease 1.2の配布を開始
TOPPERSプロジェクトに新メンバが加入
メモリ保護機能を持ったμITRON仕様OS
JSPカーネルをベースにしたOS:eFOSi
UniSTACがJSPカーネルに対応
TOPPERSプロジェクトメンバに聞く
TOPPERSプロジェクトの今後の計画
利用事例報告のお願い
メーリングリストと連絡先

JSPカーネルRelease 1.2の配布を開始

TOPPERSプロジェクトでは,TOPPERS/JSPカーネルRelease 1.2の配布を,11 月15日付けで開始しました。Release 1.2では,SH4,H8(H8/3048F), ARM7TDMIの3種類のターゲットプロセッサを新たにサポートしたことに加えて, コンフィギュレータの改良やカーネルの細部の改良を行いました。

TOPPERS/JSPカーネル(以下,JSPカーネルと略記)は,TOPPERSプロジェク トにおいて開発した,μITRON4.0仕様のスタンダードプロファイル規定に準拠 したリアルタイムカーネルです。Release 1.2では,ターゲットプロセッサと して,M68040,SH3/4,SH1,H8,ARM7TDMI,V850をサポートしています。また, i386(リアルモード)やSH2などにもポーティングされています。さらに, Linux上とWindows上で動作するシミュレーション環境を用意しています。

JSPカーネルの主な特長は次の通りです。

JSPカーネルは,オープンソースかつロイヤリティフリーのソフトウェアで す。JSPカーネルのソースコードは,TOPPERSプロジェクトのウェブサイトから ダウンロードすることができます。利用条件の詳細については,各ソースファ イルの先頭に付加されている文言か,TOPPERSプロジェクトのウェブサイトを 参照ください。

今回配布を開始したRelease 1.2における前のバージョン(Release 1.1 patchlevel=1)からの主な変更点は次の通りです。

TOPPERSプロジェクトに新メンバが加入

TOPPERSプロジェクトに,新たに苫小牧工業高等専門学校 情報工学科と, (資)もなみソフトウェアが参加されました。プロジェクトの中心である豊橋技 術科学大学 組込みリアルタイムシステム研究室と,以前より参加されている 宮城県産業技術総合センターを加えて,参加メンバが4組織となりました。

苫小牧高専では,助教授の阿部司氏がJSPカーネルのH8プロセッサ依存部の 開発を担当されており,その成果はRelease 1.2に既に取り込まれています。 もなみソフトウェアでは,邑中雅樹氏がJSPカーネルのi386プロセッサ依存部 の開発を担当される予定です。また,もなみソフトウェアは,JSPカーネルに 対するサポートビジネスを行うことを表明されています。

TOPPERSプロジェクトでは,プロジェクトの趣旨に賛同し,ソフトウェア開 発を分担してくださる組織・個人の参加をお待ちしています。興味をお持ちの 方は,このニュースレターの最後に掲載する連絡先までお問い合わせくださる と幸いです。

メモリ保護機能を持ったμITRON仕様OS

メモリ保護機能を持ったμITRON仕様OSを開発するプロジェクトが,(社)ト ロン協会によって開始されますが,メモリ保護機能を導入するベースとなるOS として,JSPカーネルが利用されることになりました。

この開発プロジェクトは,情報処理振興事業協会(IPA)による「情報技術 開発支援事業」の採択テーマの1つとして推進されるもので,IIMPプロジェク トと呼ばれています(IIMPは"Implementation of ITRON with Memory Protection"の略称)。豊橋技術科学大学 助教授の高田広章氏を統括リーダと し,実際の技術開発およびソフトウェア開発は,トロン協会のメンバ会社4社 と豊橋技術科学大学が,トロン協会からの委託を受けて実施します。

IIMPプロジェクトで開発するOSの仕様は,μITRON4.0仕様のスタンダード プロファイル規定をベースに,トロン協会のメモリ保護機能SWGにおいて検討 中の,メモリとオブジェクトに対するアクセス保護機能を追加したもので す。

具体的には,プロセスに相当する概念として保護ドメインを導入し,それ ぞれのメモリ領域やカーネルオブジェクト(タスクやセマフォなど)毎に,ど の保護ドメインからアクセスできるかを設定することができます。保護ドメイ ンには,複数のタスクを所属させることができます。アドレス変換なしに保護 のみ行うことや,静的に決まる情報を利用した最適化を行うことで,メモリ保 護によるオーバヘッドを削減する点に特長があります。

IIMPプロジェクトで開発するOSは,ターゲットプロセッサとして,ARM940T, SH3,Pentiumの3種類をサポートします。既存のプロセッサの持つメモリ保護 機構(MMUなど)は,大きく3つに分類することができますが,それぞれの分類 から代表的なプロセッサが選ばれました。また,開発するOSに対応するコンフィ ギュレータも用意されます。

IIMPプロジェクトの技術開発ならびにソフトウェア開発は,2002年2月末ま でに完了する計画です。開発成果物は,フリーソフトウェアとして配布される 予定です。

JSPカーネルをベースにしたOS:eFOSi

(株)アドバンスドデータコントロールズは,JSPカーネルをベースとして, eFOSiという名称のOSを開発されました。同社の販売するGreen Hills Software(GHS)社製の統合開発パッケージにバンドルして,無償で提供され ます。

eFOSiでは,JSPカーネルをGHS社製のコンパイラで構築できるように修正し たことに加えて,タスクレベルデバッグに対応したり,OSの資源表示機能やイ ベント解析機能を追加するなど,GHS社製の統合開発環境と組み合わせて有効 に開発ができるように拡張されています。また,GHS社製のコンパイラを用い ることで,JSPカーネルが標準にしているGCCを用いるよりも,カーネルのコー ドサイズが小さくなるという結果が得られています。

ターゲットプロセッサとして,現時点ではSH3(ターゲットボードは日立超 LSIシステムズ製のMS7709ASE01)のみに対応していますが,今後ARM9に対応す る予定です。また,GHS社製のコンパイラに付属するSHシミュレータ環境で, eFOSiのマルチタスク動作をシミュレーションすることができ,ソフトウェア のデバッグに用いることができます。

eFOSiについての詳しいことは,アドバンスドデータコントロールズ(http://www.adac.co.jp)にお問い合わせ くだされば幸いです。

UniSTACがJSPカーネルに対応

(株)ソフィアシステムズは,同社製のICE UniSTACで,JSPカーネルをサポ ートすることをアナウンスしました。これにより,JSPカーネル用のデバイス ドライバやアプリケーションプログラムのデバッグに,UniSTACと同社製の高 級言語デバッガWATCHPOINTを効果的に活用することができるようになりま す。

UniSTACについての詳しいことは,ソフィアシステムズ(http://www.sophia-systems.co.jp) にお問い合わせくだされば幸いです。

TOPPERSプロジェクトメンバに聞く

TOPPERSプロジェクトの中心メンバである,豊橋技術科学大学 組込みリア ルタイムシステム研究室 助教授の高田広章氏に,プロジェクトの狙いなどに ついてお聞きしました。

編集者:TOPPERSプロジェクトを始めた経緯を教えて下さい。

高田:私は約10年前から,TRONプロジェクトのリーダである坂村健先生の ご指導の元で,ITRON仕様の標準化に参加してきました。特に最近の数年は, トロン協会 ITRON専門委員会(現在は,バージョンアップWGに改組)の幹事と して,各種の仕様の標準化活動や普及活動において,中心的な役割を担当させ ていただきました。

そのような活動の1つとして,μITRON4.0仕様の取りまとめと仕様書の執筆 を担当したわけですが,仕様を検討していく間に,自分でも実装してみたくなっ たというのが,JSPカーネルの開発を始めた正直な動機です。もちろん,リア ルタイムOSに関する教育・研究の基盤とすることも,JSPカーネルを開発した 重要な目的です。

JSPカーネルの機能をスタンダードプロファイル規定の範囲のみと決めたこ とから,他の仕様のOSの開発も行いたいと考えていました。そこで,JSPカー ネルの開発を一連のOSを開発するプロジェクトの一環と位置付け,そのプロジェ クトをTOPPERSと名付けました。さらに,大学の外にもプロジェクトへの参加 を希望する方がいたことから,今の形に発展させてきました。

このような活動をしている内に,開発したソフトウェアをフリーソフトウェ アとして公開することで,ITRONプロジェクトの抱える問題の1つが,解決でき るのではないかと考えるようになりました。

編集者:それはどのような問題でしょうか?

高田:ITRONプロジェクトは,μITRON仕様が広く使われ業界標準となっ たという点で大きな成功を収めましたが,今後の発展に向けて,いくつかの問 題点も抱えています。

私は,その中で最も大きな問題点は,重複投資が多いことではないかと考 えています。μITRON仕様に準拠したOSを,2〜3社が競って開発する状態は大 変健全だと思うのですが,10社以上が個別に開発している現状は,無駄な投資 が行われていると言わざるをえません。その結果,新しい技術に対する開発投 資が手薄になっているのではないかと危惧しています。わかり易い例で話しま すと,μITRON仕様OS上で動作するTCP/IPプロトコルスタックは,今や10社近 くが開発を行っている一方で,新しい技術に対応するμITRON仕様OS用のソフ トウェア部品が不足しているという指摘が多く聞かれます。

リアルタイムカーネルなど,技術的に成熟したインフラ的なソフトウェア については,良質なフリーソフトウェアを提供することで,このような重複投 資の問題を軽減することができると考えています。

編集者:フリーソフトウェアが,ITRON仕様OSを開発するメーカのビジ ネスを圧迫するおそれはないですか?

高田:そのおそれが全くないと言うとウソになると思いますが,フリ ーソフトウェアがコマーシャルベースのソフトウェアを駆逐するとは考えてい ません。フリーソフトウェアとコマーシャルベースのソフトウェアには一長一 短があり,ユーザのニーズにあわせた選択肢があることが重要です。先にも述 べましたが,フリーソフトウェアも含めて2〜3の競合製品がある状態が理想的 だと思います。

また,フリーソフトウェアの周りにもいろいろなビジネスが成立すると考 えられます。例えば,用いるプロセッサやハードウェアが多様であるという組 込みシステムの事情を考慮すると,OSに対するサポートビジネスも十分に成立 します。実際,μITRON仕様OSに関しては,単にOSを販売しているだけではビ ジネスとして成立しにくく,OSメーカの多くは周辺ビジネスを主に考えている ようです。

何よりも,重複投資を避けることで,各社の開発投資が先端的な技術開発 に向けられ,業界全体としての発展が期待できることを強調したいと思いま す。

編集者:TOPPERSプロジェクトが目標にしているものはありますか?

高田:目標というよりは夢といった方が適当かもしれませんが, TOPPERSプロジェクトが,組込みシステム分野におけるLinuxのような位置付け となることを目指して,地道に開発を続けていきたいと考えています。

編集者:どうもありがとうございました。

TOPPERSプロジェクトの今後の計画

TOPPERSプロジェクトでは,引き続きJSPカーネルの改良ならびに新たなタ ーゲットプロセッサへの対応を行うとともに,その他のOSやソフトウェア部品 などの開発も行っています。

JSPカーネルの完成度はかなり上がってきたと考えていますが,今後の課題 として,次のような改良やポーティングを計画しています。

また,2001年11月の時点で,研究ないしは開発に着手しているソフトウェ アは次の通りです。

この中には,研究活動の一環として開発しているソフトウェアもあり,すべ てが公開できる完成度に達するとは限りませんが,実用化の可能性があると判断 したソフトウェアについては,フリーソフトウェアとして公開していく予定です。

利用事例報告のお願い

TOPPERSプロジェクトでは,プロジェクトで開発したソフトウェアを利用し た事例の報告をお願いしています。製品に組み込んだ場合に限らず,製品のプ ロトタイプ開発や教育・研究に利用された場合などにも,ご報告いただけると 幸いです。また,このニュースレターで紹介したように,JSPカーネルをサポ ートする開発環境やツールに関する情報も,お寄せいただけると幸いです。

TOPPERSプロジェクトは,大学や公的な研究機関などが中心に進めているプ ロジェクトですが,大学や公的な研究機関でプロジェクトを継続していくため には,プロジェクトの成果がアピールできることが極めて重要です。また,利 用事例が出てくることで,他での採用やサポートツールの開発を加速する効果 も期待できます。

次の成果を生み出す助けとするという意味で,利用事例を積極的にご報告 くださいますようお願いいたします。

メーリングリストと連絡先

JSPカーネルに関する質問やバグレポートは,TOPPERSユーザズメーリング リスト宛に送付していただくようお願いしています。このメーリングリストに は,誰でも自由にメールを送付することができ,送付されたメールは, TOPPERSプロジェクトのウェブサイトで読むことができます。メールの送付先 は,toppers-users@ertl.jpです。このメーリングリストへの登録方法につい ても,TOPPERSプロジェクトのウェブサイトをご覧下さい。

TOPPERSプロジェクトに関するその他のお問い合わせ等は,以下にお願いし ます。

豊橋技術科学大学 情報工学系
組込みリアルタイムシステム研究室
助教授 高田広章
〒441-8580 豊橋市天伯町雲雀ヶ丘1-1
TEL: (0532)44-6752 FAX: (0532)44-6781
Email: hiro@ertl.ics.tut.ac.jp

TOPPERSプロジェクトとは?

TOPPERSプロジェクトは,組込みシステム構築の基盤となる各種のソフトウェ アを開発し,良質なフリーソフトウェアとして公開することにより,組込みシ ステム技術ならびに業界の発展に資することを目的としたプロジェクトです。 豊橋技術科学大学 組込みリアルタイムシステム研究室を中心として,プロジェ クトの趣旨に賛同してソフトウェア開発を分担する組織・個人により推進され ています。

TOPPERS/JSPカーネルは,TOPPERSプロジェクトの最初の開発成果です。 1999年に開発に着手し,2000年11月に最初のバージョンの配布を開始しました。 その後数回のバージョンアップを経て,2001年11月時点で,Release 1.2が最 新バージョンとなっています。

2001年5月には,JSPカーネルの開発成果が評価され,第3回LSI IPデザイン ・アワードにおいてIP優秀賞を受賞しました。受賞者は,最初のバージョンの 開発に参加した3名(高田広章,若林隆行,本田晋也)です。


TOPPERSプロジェクト
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c/o 豊橋技術科学大学 情報工学系 組込みリアルタイムシステム研究室
〒441-8580 豊橋市天伯町雲雀ヶ丘1-1
TEL: (0532)44-6752 FAX: (0532)44-6781